コンサート御礼・「皇帝」への想い(プログラムノートより)

2018.9/22、埼玉会館小ホール、「N's室内アンサンブル第3回」

にご来場頂き、ありがとうございました。


メインではベートーヴェン室内楽編ピアノ協奏曲第5番「皇帝」を、演奏致しました。


(他、ヴィドール「序奏とロンド」、

シューベルト「岩の上の羊飼い」に出演)


いらして頂くだけでも幸せなのに、

たくさんのお花やプレゼント、素敵なお菓子・・・・!

本当にありがとうございました。
毎日、丁寧に水切りをして、大切に楽しませて頂いています。




前回のベートーヴェンピアノ協奏曲4番に続き、5番「皇帝」を勉強できたことは、とても有意義なものとなりました。

良い師に出会い、ピアノを弾くだけでなく今まで以上に沢山の著書を読み、音楽を聴き、ベートーヴェンの音、皇帝の音、自分の音、について最後まで考えて行きました。



お客様からのアンケートや頂いたメールも

全てありがたく拝読させて頂いております。



・音色が深く豊か、まろやかで心地良かった

・ベートーヴェンは疲れると思っていたが、美しさを堪能した

・ピアノが夜空に広がるように、満天の星がキラキラしているようだった



など、嬉しいお言葉とともに、会場でもブラボーが出て、紙面やメールでもブラボーと書いて頂き、とても嬉しく思っています。



中でも、

「音色やフレージング、隅々までとても端正でしなやかな演奏で非常に魅了されました。

大曲があっという間に終わってしまいました。」

というご感想は、思わず涙しました。




「45分の大曲にぐんぐん惹きこまれた」

という嬉しいご感想を沢山頂けたのは、

弦楽メンバーの皆が

私のしたいことを理解してくれ、

共に音楽を作って下さったお陰です。

ずっと寄り添って下さった、

メンバーの仲間達。

昨年も聴いて下さった方々には、

より勉強されているのがよくわかる演奏

とおっしゃって頂きました。

普段は別の仕事で活躍されている社会人の為、

限られた時間のなかで練習会を開き、

夜な夜なLINEやSkypeで連絡を取り合い、

真摯に理解を深めて行きました。

本番でもともに楽しく演奏できたこと、

心から感謝しています。



🍀


いつも私の演奏を見守ってくださる方、

わざわざ遠方から足を運んで下さった方、

初めて聴いて下さった方、

いらっしゃる事はできなかったけれど、いつも応援し励ましてくださる方々、

譜めくり初挑戦のピアノの生徒さん、運営して下さったスタッフ、今回のコンサートを一緒に作り上げた出演者の方々、

本当にありがとうございました。


そして、誰のお知り合いでもないのに、チラシやポスターを見て「楽しそうだから」とご来場くださった方々が、アンケートにとても嬉しいご感想をたくさん書いてくださいました。

一同、これからの活動の励みになると、大変喜んでおります。


皆様、どうぞこれからもよろしくお願い申し上げます。




<プログラムノート>

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」作品73 室内楽版

記述:佐藤恵子

「皇帝」というタイトルはベートーヴェン自身が名付けたわけではなく、後に威風堂々とした曲想から一般的に呼称されるようになったものです。

しかし作曲された時期は、かつて彼が尊敬していた(後に裏切られた思いとなる)ナポレオン率いるフランス軍がウィーンを包囲していた時期と重なります。ベートーヴェンは暗い地下室に避難し、激しい銃撃や砲弾により難聴が更に悪化していきました。

このような状況下で作曲されたので「皇帝」という名が相応しくないとする専門家の意見も見られます。

5曲あるピアノ協奏曲のうち4番まではベートーヴェン自身のピアノで初演されましたが、5番は難聴悪化の為、演奏から下りる事となりました。

ベートーヴェンは一生を通してそれまで考えられなかった作曲法や手法で魂の発露を模索し続け、銃や武器の代わりに音楽で時代を変えて行きました。

酷い状況下でも尽きない創作エネルギーからは、時代を変えたいという強い想いがあったのではないでしょうか。

名ピアニスト、アンドラーシュ・シフは56歳の時にこう語っています。

「私がベートーヴェンを理解するようになったのは最近の事です。

テクニックばかりに集中するのではなく、幅広く、文学、歴史、哲学について学ばなければ、ベートーヴェンを理解することは難しい。

ベートーヴェンのファンタジーは、いかなる境界、限界も超えていました。

彼の芸術は音楽だけに留まることなく、人生のあらゆる側面と関わりを持っているのです。」





私の今回のベートーヴェン「皇帝」のイメージは、勉強を重ねる中で、雄大さの中にもぎっしりと愛情のつまった壮大な空間となって行きました。


当時では考えられなかった斬新な手法に、当時最先端だった「ピアノ」という楽器の可能性を存分に試しながら、めくるめくファンタジーが「第5番(皇帝)」に、ありました。



1楽章の、ある部分。

明るく雄大で堂々とした音楽の中に、ところどころ砲弾や銃声、軍隊の音(それも悲しげに)が聴こえてきます。

すると、すぐに世界が一変し…

美しいメロディが開け、教会の鐘の音が鳴り、爽やかな風が吹き、美しい緑が見えてきます。

勇気や希望が溢れ、歓喜に満ち溢れた終わり。



2楽章は、まるで花びらが開いていくかのような、
あるいは透明感のある美しい水の中で、ゆったりと魚が動いていくかのような、繊細さ、優雅さ、そしてロマンス。




ベートーヴェンが戦争という酷い状況で、さらには難聴で舞台降板しなければならないという音楽家には死にも等しい最悪な哀しみの中で、

この世界に、人間たちに、自然に、自分の人生に、どんな思いを持ち続けていたのかと・・・。

心のなかでベートーヴェンの音楽を響かせるだけでも、様々に語りかけてきてくれ、

今でも泣けてきます。



作曲家に敬意を表する演奏ができるよう、

日々、誠実に真摯な気持ちで、精進を重ねて行きたいと思います。



音楽に、その周りにいる方々に、感謝。



2018.9.27
佐藤恵子